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zoom RSS 【848】 車内補充券は魔法の切符

<<   作成日時 : 2018/01/29 06:30   >>

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冒頭の画像は、使用済として発行された車内補充券です。もう使えませんよとお客様に対して明確な表現です。視点を変えると、この乗車券は北陸本線下り方向行なのに、上りの特急列車で発行されたものであることが列車番号からわかります。車内補充券は50枚の冊になっていて控片が車掌側に残りますので、控片を見れば乗務行路の時間的経過と発行した乗車券の発着駅が連動します。上り方面行きで発行された控片のなかに1枚だけ下りの片道乗車券が発行されていれば不自然で、あとで審査する部署の担当者が不審に思いますが、「使用済」と書いてあれば、「ああ、無札で野々市から乗って、金沢で折り返しそのまま上りの特急に乗ったお客様からの申告だったのだな」と想像がつきます。
車内ではどんな申告があるかわかりませんから、事前印刷された1つの様式でありながら、車内で起こりうるケースに可能な限りの事例に対応できる車内補充券は、魔法の切符と言ってもいいと思います。企画乗車券のような切符を除けば、これ1枚で片道・往復・連続乗車券・特急券・急行券・グリーン券・寝台券のほか、区間変更、指定席変更、種類変更は言うに及ばず、不正乗車の増運賃の精算も可能でした。ほかには、
間違って小児用の乗車券の買った時の精算
私鉄からの連絡乗車券の区間変更
誤って乗継割引として発行された特急券の精算
運賃を誤って発行された乗車券の精算
自由席グリーン車が満員で着席できなかった時の不使用証としての発行
複数人に1枚で発行された乗車券の分割
往復割引が適用されなくなる区間変更による差額精算 
etc.

そもそも実際にレアケースに当たることは稀でしたので、わずか6年少々しかない私の車掌経験では、上に掲げた例にあるような特殊な乗車券類の発行をしたことはありません。そして何にでも使える魔法の切符を素早く正しく使いこなされる車掌長には、その経験に裏打ちされた職人的知識が刻まれているなあと思ったものです。それに加え、二者択一を迫られる場面で、乗客に対し有利と判断すれば、助役であろうが駅長であろうが、管理局の指令であろうが物申すという執務姿勢は、「この列車は俺の列車」だという棟梁のような心意気さえ感じる方もありました。

私の場合は、現役時代における規定類の勉強も足りず、自信がないなかで仕事をしていたので、乗務中には特殊な例についての記入例が列挙された冊子を必ず携帯して、ときにはそのページを開いて確認しながら車内補充券の発行をしたものです。そして仕事から離れて時が経ち、現行のJR各社の規定類をひも解いたことがないので、お恥ずかしいですが、これ以上を語れません。

乗車券類の様式は、国鉄のころから様変わりしていますが、基本的な規定の根幹部分は変わっていないと思いますので、ここであれこれ紹介することによって、その知識を変に悪用されたり、必要でないのに自己の趣味のために、車内で乗務員さんの手を煩わせるような行為があるといけませんので、差し支えないと思われる範囲で、車内補充券の変わった使用法を2つ。

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●信州ワイド周遊券のオプション券の発売
今は周遊券が廃止されてしまいましたが、車内補充券では周遊券の発売はできませんでした。しかし例外としてしなの号の乗務では「ときどきあるから絶対覚えておけ」と言われていたのが、東京都区内発と仙台市内発信州ワイド周遊券のオプション券の車内発売でした。
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(交通公社時刻表1987年3月号のピンクのページから引用した画像です。)
東京都区内発と仙台市内発の信州ワイド周遊券(往路A券・自由周遊区間と復路B券)の経路には、飯田線の豊橋経由は入っていたのに、中央西線名古屋経由の経路は設定されていませんでした。しかし自由周遊区間が中津川まであるので、名古屋経由の需要はあったと思われ、オプション設定されていたのが、中津川〜豊橋間の空白をつなぐ「L券」でした。
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(交通公社時刻表1987年3月号のピンクのページから引用した画像です。)
当然に本体のA・B券と同時購入すべきものでしょうが、中央西線の上り名古屋行き車内でL券をお持ちでない方に、車内補充券を使って中津川から先の周遊券のオプション券を発売することができたわけで、これは異例の取り扱いでした。
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(この画像は、国鉄時代に車内補充券で発行された状態を再現したもので、実物ではありません。)
信州ワイドL券(中津川〜豊橋)は2400円(国鉄最後の運賃改定時 以下同じ)で、原券マル遊(周遊券)として中津川〜豊橋間を別途片道で発売しても同額でしたので、お客様には不利にはならないように思えますが、L券として発行すると、

・名古屋から東名高速バスも利用可能。
・原券が学生割引の場合は、新たな割引証なしで学割運賃(1700円)を適用。
・有効期間が原券残余日数となる。
(仙台市内発は10日−経過日数、東京都区内発は7日−経過日数。別途片道で発行すれば有効期間は2日)
・急行列車の自由席利用であれば急行券不要(しなの号の場合は特急なので対象外)

と、いったところが考えられます。

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●普通手回り品料金の収受
ペットの犬猫といっしょにご乗車の方や、輪行の自転車をお持ちの方は、駅で普通手回り品料金を支払うと、このような様式の荷札状の普通手回り品切符が発行されます。
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無人駅からご乗車されたお客様には、車掌が車内で乗車券といっしょに普通手回り品切符に代わる証票として車内補充券で料金を収受しました。
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(この画像は、国鉄時代に車内補充券で発行された状態を再現したもので、実物ではありません。)

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私は、信州ワイド周遊券のオプション券を発売したことは記憶にないですが、手回り品は、普通列車でも稀ではありましたがありましたので、複数回書いたことがありました。

国鉄を退職してからは、全国の旧国鉄線に乗りに行き、ときには車内で車内補充券を乗車記録として発売してもらうようになりました。
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「北斗星」で北海道へ行ったときに購入した車内補充券の再掲画像です。)

しかし、ほどなく車内補充券発行機が普及し始め、ワンマン運転が増えたこともあって、手書きの車内補充券は姿を消していきましたから、わざわざ買うことはすぐになくなりました。下の画像は西国三十三所巡りで紀三井寺へ行ったときに車内で購入した往復乗車券(3人分)です。ただのレシートみたいで味気ないですが、今から思うとカタカナでの表記が時代を感じさせます。
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代わりとなる乗車記録方法は15年前からデジタルカメラによる「駅や車両の撮影画像」に置き換わりました。購入した乗車券類は他の鉄道グッズと違って場所を取らないので、譲渡や処分することなく自らの乗車記録として遺してありますが、ノーカーボンの複写式車内補充券だと、記入された文字が年月とともに消えていきつつあります。カーボン紙をはさんで発行された車内補充券は、今も変わらずその日に自分が乗った列車を教えてくれているだけでなく、印字されて発行される乗車券類にはない「表情」が感じられます。


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
へえ、信州周遊券にはオプションが有ったのですか。しかも車内で書い足せる.....。となると、駅でも出札もしくは改札補充券で発券出来ると解釈してしまうのですが。まさか途中駅で常備されたケースはなかったと思いますが。
北陸周遊券で周遊区間外となる宇出津-蛸島乗り越し精算を若い車掌さんにお願いしたところ、しばらくしてから戻って来られ、もう一度補充券を見せて欲しいとの事。提示すると、最初は気付かなかったのですが、原券「周」号を「遊」号に訂正され、印を捺して戻ってゆかれましたが、たぶん先輩と思しき相勤車掌さんに確認されたのでしょう。そのまま区に持ち帰ったらやはり指摘されたのでしょうね。
有効期限もすぐに計算するのは慣れ、でしょうか。一度、復路専用常備券が欲しいために、長距離切符で分岐駅-主要駅飛び出し精算を駅精算所でお願いしたところ、単に往路乗り越し精算だけで済まされてしまいました。私の所持する片道乗車券は6日間有効、片や復路専用常備券は2日間有効なので、日数のバランスを勘案してこれを発券されなかったと解釈しています。
しかし、魔法の切符だけあってマルチに使用される記入式補充券、紛失、盗難なんてあったら大変なことになるでしょうから、魔法使いの車掌さんも管理が大変ですね。
NAO
2018/01/29 14:23
こんばんは。

特別補充券に分類される出札補充券、改札補充券、車内補充券、料金専用補充券を比較すると、発行事例の多さ、列車内という悪条件で即断即決の発行しなければならない車内補充券の発行は、特に知識と熟練がモノをいうもので、車内補充券が「魔法の切符」ならばそれを発行する車掌長や専務車掌は「魔法使い」といえましょう。
先日書きました「概算壱百円」の九州旅行の帰りは、西鹿児島発の特急「富士」に乗りました。大分までの大分車掌区、大分からの東京車掌区の車掌長に車内補充券を所望しましたが、お二人ともなるべく安く、かつ、後に疑義が生じないような「分岐片道」で発行してくれました。特に、東京車掌区の車掌長に頼んだのは日替わり前の時点で、区間は日替わり後の「熱海から網代まで」でしたが、記事欄には「●月●日から有効」と記入するなど基準規程に忠実な発行方で、両面カーボンを挟んで鉄筆で記入する点もあわせて、超ベテランぶりに感服したものでした。

そういえば昔の東海道新幹線の車内では、自由席特急券や自由席特急回数券を持ったビジネスマンが指定席の空席に勝手に座り、車掌も慣れた手つきで「指変」の車内補充券を発行していたものですが、近年は全く見なくなりました。インターネット予約やICカード利用が浸透し、スマホであらかじめ予約や変更を旅客自身できちんと行っているものと思われ、時代の流れを感じるところです。
TOKYO WEST
2018/01/29 19:50
NAO様 こんばんは。
私は車掌時代、車掌区からは厚い周遊券関係の規定本も貸与されていましたが、周遊券は乗車変更ができませんから実務に関係が薄く、乗務で持ち歩くことはまったくなく、ロッカーの奥に寝かせていましたから、周遊券については特に疎く、それはどこの車掌でも同じだと思います。ただ「信州ワイドの附加発売だけは覚えとけ」ということでしたから、発売個所にルート上の車内が加えられていたということでしょうけれど、手元には資料がなく根拠になる規定は解りかねます。時刻表のピンクページを見ると、北陸ワイド周遊券では七尾線が含まれないので、能登を対象としたオプション券(G券片?)があったんですね。
マル周はちょっと変で、そのまま車掌区に帰ってから、控片に「マル周とあるはマル遊が正当。誤記に付き、よろしくお願いします」と書いた付箋を貼って引継ぎすることになるのでしょう。

復路専用乗車券は「長野〜篠ノ井」の硬券をいつも見ていました。「すぐ戻るので」と言わないと発行しなかったかもしれないですね。

車掌は失くすと困るものをいつも持ち歩きました。車補もそうですし、ほかにもありましたから、来月そんなことも書きます。
しなの7号
2018/01/29 21:07
TOKYO WEST様 こんばんは。
NAO様のコメントにもありましたが、長年長距離列車に乗ってこられた車掌長や専務車掌は「魔法使い」であって、それは旅客営業の範疇だけでないところが、一朝一夕にできる仕事ではないと思うところです。日付をまたいで翌朝以降も運転される列車が壊滅状態になった今となっては、運転日や乗車券類の発行で、あれこれ間違いのもととなる日付の問題も影を潜めたのでしょうか。頑なに鉄筆で車補を達筆で書いておられる車掌長氏は私の職場にもおられました。あと5年くらい車掌の仕事をしていたら、超ベテランの方々から直にご教示願えたのにとも思いますが、そう考えるまでもなく最後の1年で50代の方々は続々と早期退職されましたから、たぶんそれも無理だったでしょう。

最近、新幹線に乗る機会がまったくないのですが、夕方の「しなの」でも、長野〜松本まで、乗ってしまえば何とかなるさというビジネスマン相手に、ひたすら車補を書いていたことがありました。単身赴任帰りも加わる金曜日は売上がいつも多かったですね。今はどうなのかな。「しなの」にも、しばらく乗ったことがありません。
しなの7号
2018/01/29 21:08

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